東京地方裁判所 昭和41年(ワ)3625号 判決 1966年10月28日
原告 有限会社葵ビル
右代表者代表取締役 田島玉枝
右訴訟代理人弁護士 佐藤安俊
被告 石井六郎
右訴訟代理人弁護士 岡部勇一
主文
被告は原告に対し別紙物件目録記載の建物を明渡し、昭和四一年三月一日以降明渡済まで一ヶ月金五万二千円の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、原告が金一〇万円の担保を供したときは、かりに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
一、原告は別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を所有している。
二、被告は昭和四一年三月一日以降原告に対抗しうべき何等の権原なく右建物を占有している。
三、原告は以前右建物を一ヶ月金五万二千円の賃料で訴外阿部勝弘に賃貸していたものであるが、被告の不法占有のため同額の損害を蒙っている。
四、よって、原告は被告に対し所有権に基づき右建物の明渡および右損害金の支払を求める。
被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁ならびに抗弁として、次のとおり述べた。
一、原告が本件建物を所有していること、被告が昭和四一年三月一日以降右建物を占有していたことは認める。
二、本件建物は、訴外阿部勝弘が原告から賃借していたが、昭和四一年二月二一日被告が右訴外人から賃借権の譲渡を受け同訴外人において右譲渡につき原告の承諾を得る約定であったところ、その承諾を得ることができなかったので、被告は同年七月一八日付書面をもって同訴外人に対し右譲渡契約を解除し、同日本件建物の占有を同訴外人に引渡した。
原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対し次のとおり述べた。
一、被告主張の抗弁事実は認める。
二、しかし、原告は昭和四一年六月八日本件建物につき当裁判所同年(ヨ)第四七二八号占有移転禁止の仮処分決定正本に基き同月九日被告の占有を解いて執行吏の保管に移し、第三者に占有を移転することを禁止して被告にこれを使用せしめる旨の仮処分を執行したものである。それ故その後になされた被告の訴外阿部勝弘に対する本件建物の占有移転は右仮処分に違反するものであり、原告に対しこれを対抗しえないものであり、法律上はなお被告がその占有者とみなされるものである。なお、右訴外人に対しては原告は昭和四一年四月一一日付同月一四日到達の書面をもって無断賃借権譲渡を理由として本件建物賃貸借解除の意思表示をした。
被告訴訟代理人は、本件建物に関し原告主張のとおり仮処分の執行がなされたことは認めるが、原告主張の法律上の見解は争う、被告は訴外阿部勝弘に対し前記賃借権譲渡契約を解除して被告の不法占有を解消し、本件建物の占有を本来の適法な賃借権者たる右訴外人に復帰させたものであるから、原告はこれを阻止する権限はないのである。と述べた。
証拠≪省略≫
理由
本件建物が原告の所有であること、被告が昭和四一年三月一日以降右建物を占有していたこと、原告が右建物を一ヶ月金五万二千円の賃料で訴外阿部勝弘に賃貸していたこと、被告は右訴外人から本件建物の賃借権の譲渡を受けてこれを占有するに至ったが、右譲渡につき原告の承諾を得られなかったため、同年七月一八日同訴外人に対し右譲渡契約を解除し、同日本件建物の占有を同訴外人に引渡したこと、本件建物につき原告が被告に対し同年六月八日被告主張のとおり占有移転禁止の仮処分決定を得てこれを執行したことは、いずれも当事者間に争がない。
右によれば、現に本件建物の現実の占有は訴外阿部勝弘にあって被告にはないことが明らかであるけれども、それは被告が原告のなした占有移転禁止の仮処分に違反してその占有を右訴外人に移転したことによるものであって、被告は右占有移転をもって原告に対抗し得ないものといわなければならない。そうだとすれば、原告の被告に対する本件建物明渡請求権の有無は右仮処分のなされた当時の占有状態にもとづいて判断すべきものと考える。
もっとも、被告は、本件建物については、賃借権無断譲渡による被告の不法占有を解消するため、右譲渡契約を解除し、本来の適法な賃借権者たる訴外人にその占有を復帰させたものであるから、原告はこれを阻止できないと主張するけれども、かりに事実関係が被告主張のとおりであるとしても、被告の右占有移転が本件仮処分に違反する点においては、一般の第三者に対するそれと選ぶところはなく、いわんや本件においては、≪証拠省略≫により、原告は右訴外人に対し昭和四一年四月一一日付書面をもって無断賃借権譲渡を理由として本件建物賃貸借契約解除の意思表示をしたことが明らかであるから、被告のいうように適法な占有状態に復帰させたものともいうことはできない。
よって、原告の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺忠之)